2012/11/01

『幻燈』

欲しい物を手に入れたとしても幸せとは限らないというお話?です。
掌編なので、さくっとどうぞ。

-----

僕には好きな人がいる。
楽しいことがあった日も、
悲しいことがあった日も。
いつも公園で微笑んでいる。

僕には好きな人がいる。
何度も会うけど、名前を知らない。
試しに聞いてみたけれど、
答えは帰ってこなかった。

僕には好きな人がいる。
雨の日だって、公園にいる。
どんな土砂降りの日でさえも、
傘も差さずに微笑んでいる。


僕には好きな人がいた。
ある日いきなりいなくなった。
探したけれどだめだった。
あの微笑みはどこかに消えた。

僕には好きな人がいた。
いつしか公園はさびれていた。
でも草むらの中からついに見つけた。
彼女に出会う手がかりを。


僕には好きな人がいる。
公園ではなく、僕の部屋。
無口な彼女は饒舌になった。
今日も今日とて、優しく微笑む。


でも、なぜだろう全然笑えない。
あのころよりも仲良くなれたのに。
彼女はまだしゃべっていたが、
僕はそっとコードを抜いた。

完璧なその微笑みは、
完璧なまま時間が止まる。

0 件のコメント:

コメントを投稿